ざわざわとしか聞こえない人の言葉と、食器のぶつかる高い音。
里でいちばんの居酒屋の隅の大部屋を借り切っての、酒宴はまだはじまったばかり。
とはいえ、樽から汲まれた酒がほうぼうの膳の中央を陣取っていることを見れば、始まりより半刻はすぎていることが知れる。
千手の者たちはそれが酒であることを感じさせない量を、
うちはの者たちはそれが薬であるかのような緩やかなスピードで、
それでも共に酒樽の中身の嵩を減らし続けていた。
その
強者たちが今握りしめるのは
愛刀ではなく、自らの運命を握る「王様ゲームのクジ」、である。
クジの内容を知るのはこの時点では、引いた本人だけだ。番号を知られまいと多くの者がその内容の描かれた部分を拳で握りしめている。決して汗でマーキングをしようとしているわけではないと、ここでは信じた方が良いだろう。
全員に行き渡ったところで、あたりを見回した誰からともなく、声がかかる。
「じゃぁそろそろ・・・」
「「「「王様はだーれだ!」」」」
「私だ」
と名乗り出たの千手の女傑
桃華だ。
辺りの視線を一身に注がれた彼女は、「王」と大きく書かれたクジの先端をチラチラと細い指先で回して見せた。
千手の者たちがごくりと唾をのみこむ音は
にやり・・・、と赤い唇を釣り上げた女王の圧政への恐怖故、である。
「どうして欲しい・・・・・? ま、最初だからな」
そう呟きつつ、下った命は。
「9番は10番に ・・・そうだな
耳元で息吹きかけつつ【ずっとあんたの事気になってたんだ・・・】的な事を言え」
ざわ・・・!
早速容赦の欠片もない命令を前に、動揺が広がっていく・・と見せかけて、
他人の不幸は蜜の味。
・・・指名されていない番号の人間は思わず頬が緩んでいる。
「ホレホレさっさと立て!」という女王のハッパに応じて、不幸の降りかかった当人たちを探し始めるのである。
「9番、10番、だ~れだ!」
皆が最初の犠牲者は誰かと見回す中、
「10番だ」と柱間が相手を特定の人物と期待しているらしく、
全く持って犠牲者らしくない面持ちで立ち上がった。
柱間「オレに言い寄ってくれるお相手は?」
9番を持って静かに立ち上がったのは、
うちはのNo.2、ヒカクである。
「ヒカクどの・・!?大丈夫ですか・・・・・・?」
うちは側に、動揺の波が広がる。
端正な顔に表情を載せない彼。
躊躇うことなく「お相手」のところへ近づいていくのを、周囲が好奇と不安の目で見守った。
何せ、最初の最初から、一方の頭領と一方のNo.2による破廉恥ゲームである。
このような場でなければ、決して見ることのできないものを目にできる、そんな好奇心。
「次は自分かもしれない」という不安を一時忘れていることに彼らが気付くのは、いつだろうか。
「……柱間殿、失礼する」
すっ と衣擦れの音がして屈む、優雅な仕草。
膳を前に胡坐をとる柱間の耳元にヒカクの薄い唇が近づくにつれ、皆の顔が少し前のめりになるようだ。
最後に「ふっ」と柱間の耳にヒカクの息が吹き込まれると、
どこからか、「・・・おおぉぉッ」
という声があがった。
艶やかな2人を見るうちに、その感覚を妄想しすぎたのか、
ぶるり、と身体を震わせた者もいた。
千手の者たちから見ると、うちはの者たちは、なんということもなく、全てが優雅なのである。わざとらしくもなく、思うところもなく、それが自然。血統のなせるワザであろうか、
多くは、がっちりもっさりとした自らを省みて、照れくさいような気分になるのであった。
「では」
「最後の「フー」は弱くないかそれは?ほとんど何も感じなかったが・・・」
耳をひねりながら柱間がヒカクに物を言う。
「・・・貴方が鈍感なんでしょう?もっと掃除したほうがいいかもしれませんね」
「(マダラ、後で膝枕で耳掃除・・・・・・・してくれなさそうだなぁ・・・・まぁお願いしてみるか!)」
「・・・・・・・・・」
そんな柱間とヒカクの様子を、マダラは少し離れた向かい側でじっと見ていた。
あの、キノコ野郎。
さんざん自分にちょっかいをかけてくる柱間も、ヒカクにあのようにされたら悪い気はしないようだ。
「好ましい」、などと・・・・・・・・・・・
バカバカしい、そんな風に目を逸らして
「お前、クジを回収しろ」
と斜め前に座る千手の人間にクジを無造作に押し付けた。
その様子をその場の女王、桃華は、にやにやと楽しげに見ていた。
(マダラ、お前はやはりうちの大将が好きなんだろう?)
柱間とマダラがお互いにお互いを気にしあっている様子は何年も前から知っている桃華である。
彼女は二人が早く「ツレ」になるようにと色々一人で画策しているのだが、
(今回だって、お前と柱間でやらせたかったんだが・・・まぁ仕方ないな)
と、あっけらかんとしているため、それほど今まで功を奏してはいない。結局は二人の問題であるから、必要以上に口は挟まない、さらりとした女であった。
マダラにクジを押し付けられた青年が素直にクジを回収を進め始めた。
2回目とあって、皆スムーズにクジを引いていく。
「それじゃ・・・6番と15番の人、フンドシいっちょで押し相撲するように!!」
と、マシなのかマシじゃないのか微妙な命令を下す王。
6番と15番はうちはの青年同士。
生白い肌をあらわにした青年たちが手で相手をツツキマワしたりいなしたりとせわしない様子に、一同応援やら笑いやら、野次やらが飛び交った。
3回目の王は、目立たずとも実力は名高いの千手の男。モソモソと魚を丸のみしながら、
「皆忘れているかもしれんからここらでいっとくか・・・
19番と1番は、ポッキーゲームだ!!!」
きたきた!と、どよめく室内。
女性の参加者が桃華のみ、というこの男だらけの室内で、相撲ならまだしも
ポッキーゲームは、やはり死刑宣告に等しい。
たとえ一方が運よく女性の桃華であったとしても、ポッキーで口づけなどしようものなら、どんなにハイヒールでめりこませられるか分らない。軽く2メートルはめりこませられるだろう。
千手の多くの男たちは勿論口には出さないが、「むさい千手の男よりは桃華がいい」が、「桃華よりはうちはの方がいい」と思っている節がある。その思想が非常に危うい事は言うまでもないのだが・・・。
「……誰だ、1番、19番」
ざわざわとあたりを見回すが、誰も名乗り出る者がいない。
「覚悟を決めて名乗れ~隠してもクジ回収の時にばれるんだからな~」
「ーーー!」
「1番は・・・・・・・・・・オレだ・・・!」
誰にも聞こえないほどのかすかな声で主張するのは、
うちはの絶対的な長、うちはマダラである。
だが、マダラ一点を基本視点にしている柱間と、マダラの近くに侍るヒカクを除いて、気付けた者はいない。
自分の余りのクジ運の悪さへの怒りに震えて、声が出ていないからだ。
マダラがポッキーゲームの実行者の一方に選ばれたとすぐに知った柱間だが、
自分の番号を見やれば、
またも、「10」である。
こればかりは仕方がない。マダラの恥じらいの表情でも見て今夜のオカz・・ではなく明日を生きる糧にしようと邪な心に決めたのだったが。
「19番は・・・・・・だれだ?離席か?」
さすがにマダラが1番だと皆気付き始めたが、うちはの頭領とポッキーゲームに興じるべき肝心のお相手が一向に名乗りでないことに、皆騒ぎ始めた。
王の命令が済んだ後であるから、何番、何番とクジと突き合わせながら順に全員に確認していく。このような作業もヒカクが率先して行っていたが、調査の結果、誰も19のクジを持つ者はいなかった。
「そういえばここ、19人しか今いないな・・・」
誰かがいない、そう皆が話しているところに、
辺りをぐるりと見回した柱間がおもむろに口を開いた。
「扉間だな。」
「・・・・・・!」
皆、そういえば、あの人がいないと気付く。その不在に気付くのが、遅すぎるその場の面々であった。
「・・・クジを引いた後、厠でもいっていたのだろう・・ほら。」
ガラリ、と部屋のふすまに手をかけ入ってきたのは、押しも押されもせぬ千手のNo.2、千手扉間である。
暑さを嫌ってか、着物の首元を少し自ら緩めた跡がある。
部屋の者全員が自らをみつめるのには多少驚いたらしい扉間は、
「なにがあった?」
と短く横の者に聞くと、1番のマダラとポッキーゲームをすることになった19番がいない、お前か?と深刻そうに教えられた。
なるほど、確かに19番のクジを引いてから、どうせ何事もあるまいと
夜風にあたりに一人表に出ていたのが、まさかそんなことになっているとは・・・・・・。
チラリ、と相手のマダラを見ると、
「すみません・・・!すみませんマダラ様・・!」
とぺこぺこ謝るポッキー青年から、選ばれし運命のポッキーを一本、受け取っているところだった。
これから起こることに対する気恥ずかしさからか、少し入った酒のせいか、もともと赤みのある目元と唇に加えて、頬も上気しているようだ。
「マダラ」
「・・・・・・扉間!お前どこいっていた!」
赤い瞳が扉間を中央に映すと、赤の鮮やかさが増す。美しい、といつものように彼は思った。
「・・・暑かったから外へな・・・ところで、お前・・・」
「いいのか?」
「好いも何も・・・・・・」
やるしかなかろう?
そういってマダラがしぶしぶ、ポッキーのチョコがついていない方を銜えようとした、
その時。
「・・・・・・ッ」
力でマダラを引き寄せた扉間は、そのまま覆いかぶさるように、マダラの唇を吸った。
1秒、2秒とマダラの間近で、白い彼の肌や匂いを感じていると、ふとなぜ自分がこのようなことをしているのか、考えた。
3秒、4秒。そうだ。マダラがオレとポッキーゲームをするために細長いポッキーをその口に迎え入れようとしているのを見た。
ポッキーが自分よりも先にマダラの口に触れるのが嫌だったからだった。
そんな子供にも笑われるようなことが、接吻の理由。
だが、次第に腕の中の相手の、実に滑らかな唇は柔らかく刺激すればそれに小さく応えるように熱さを増す。
これを蹂躙したくならないなら男をやめるがいいとまで思う。
5秒、6秒。
マダラの唇からはねのけられたポッキーは驚いた彼の手に強く握られ、今にも折れそうになりながらも、無念の思いの如くその黒い体液を彼の手に落としている。
「っは、ん…、扉間……!」
息を求めたマダラの声が、途切れ途切れに、室内を犯す。
彼の声は決して高くはない男のものだが、戦場で命令することに慣れた透き通ったそれが、一人の男の為にそこまで情欲をそそるものになるのかと思えば、下腹のあたりも熱くなろうというものだ。
いつのまにか、10秒。
扉間は、ゆっくりとマダラを離した。
「~~~~~~~~ッッ扉間!!! なんだこれは、何のつもりだ・・・!」
マダラは火遁を吹いた時でもこれほど赤くはなるまいという程、顔を真っ赤にして抗議した。
問答無用で殴り倒さないのは、兄の柱間に対する時と大きく違うところ。
「いや・・・・・・・」
何かうまい言い訳はないかと案じるが、残念ながら何を考えてもつい先ほどの甘い口づけを思い出してしまう。思春期か、と扉間は我ながらあきれた。
とりあえずはこの場を生きて乗り切らねばならない。向こう側でポッキーに負けない黒い殺気を発している兄にやられないためにも。
そう思うやいなや、マダラの手をとり、そこから素早くポッキーを食べきってしまった。その間、0.01秒。
マダラが瞬きをしている間の出来事、いつのまにか彼の手から一本のポッキーは消え去っている。
「ちゃんとポッキーは使った・・・そうだろう、マダラ。」
そういってにやり、と笑えば
「・・・・・・後で覚えてろ、この酔っ払い犬」
と赤い顔で睨まれた。兄もこのような顔がたまらなくてちょっかいをかけ続けるのだろう、気持ちは大いにわかると心の中でだけ兄の肩をたたいた。
シンと静まった室内。
「ポッキーゲーム終わりだ!次いくぞ!」と長い前髪でマダラは明らかに上気した顔を隠すようにずんずんと自分の席へ戻っていったところから、再び時が回り始める。
「何もなかったのか?アレやっぱり幻覚か?」と一人首をひねる者、
主の染まった表情を複雑な気持ちで見つめる者、
弟の暴挙を瞬きもせず止めもせず見守っていた者、
ポッキーゲームってあんなにキスするものだっけと、ずれたことで悩む者・・・。
それぞれにそれぞれの思いを抱かせながら、それでも酒宴は酣、いつのまにか千手もうちはもなく入り乱れて飲み交わす、ただの飲み会になっていったのだった。
宴が朝方まで続き、ごろごろと皆雑魚寝をし始めた後。
こっそりと、その場を抜け出した2人がいたが、それは誰と誰であったか・・・
それはまた、別の話である。
眠い・・・色々とずれててすみません、多分後日修正します・・・・・!誤字脱字いくらでもありそうだし、絶対言い回しとかおかしいのですがもうチェックの時間がないという・・!
長々とお読みくださり、ありがとうございました!!!
明日のジャンプ+今週末の映画が楽しみですねっ><w!